健忘(けんぼう)は記憶障害のうち、特に宣言的記憶の障害された状態を指す。宣言的記憶(陳述記憶)とは記憶のうち言語で表現できる種類のもの、エピソード記憶や意味記憶のことである。
一般的に言う「もの忘れ」から「記憶喪失」まで含んだ概念である。 なお、健忘の「健」は、甚だの意である。健闘の「健」と同じ意味。
健忘は様々な病態および症候の総称であり、いくつかの観点から分類ができる。
原因による分類 [編集]
心因性
心的外傷やストレスにさらされたことでおこる健忘。精神病理学的には解離の一種に分類され、解離性遁走や譫妄と合併することも多い。脳に器質的な障害はみられない。
外傷性
頭部外傷をきっかけとしたもの。
薬剤性
精神作用のある薬剤の使用によるもの。飲酒によるものが体験されることが多く、睡眠導入剤によるものもよく知られる。
症候性
全身疾患の症状としての健忘。コルサコフ症候群、正常圧水頭症などでは代表的な症状である。
認知症(痴呆)
認知症で健忘は必発であり、初期からみられる。また、神経の変性疾患で健忘そのものが症状である疾患もこれに分類される。
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時間的関係による分類 [編集]
前向性健忘
受傷などした以降の記憶が抜け落ちた状態。記銘、すなわち新しく覚えることの障害と解釈できる。
逆向性健忘
受傷・発症より昔の記憶が抜け落ちた状態。記憶を呼び出す想起の障害と解釈できる。
その他
薬剤性のように、薬剤が有効である間の記憶がない場合は、睡眠導入剤であれば「中途覚醒時健忘」などと表現することがある。
思い出せない記憶の内容による分類 [編集]
全健忘
健忘の期間内の記憶すべてが思い出せない状態。
部分健忘
期間内の記憶のうち、思い出せるものと思い出せないものが混在した状態。
疾患と診療 [編集]
健忘を主症状とし、疾患概念の確立されたものには以下のようなものがある。
全生活史健忘(Generalized Amnesia) [編集]
発症以前の出生以来すべての自分に関する記憶が思い出せない(逆向性・全健忘)状態。自分の名前さえもわからず、「ここはどこ?私は誰?」という一般的に記憶喪失と呼ばれる状態である。「記憶喪失」と同視されている。障害されるのは主に自分に関する記憶であり、社会的なエピソードは覚えていることもある。
多くは心因性。まれに、頭部外傷をきっかけとして発症することがある。発症後、記憶は次第に戻ってくることが多い。治療としては、催眠療法で想起を促すことなどが行われる。
一過性全健忘(TGA:Transient Global Amnesia) [編集]
健康だった人が、突然前向性健忘をおこし、新しいことをまったく覚えられなくなるもの。自分の周囲の状況を把握できなくなるため本人は混乱し、同じ質問を繰り返す。
通常24時間以内に回復し、積極的な治療は不要なことが多い。ストレスの多い人に起こりやすく、側頭葉の血流低下が関与しているとみられている。